札幌地方裁判所 昭和60年(行ウ)8号 判決 1986年12月19日
原告 上田宏一 ほか七名
被告 北海道知事
代理人 菅原崇 大石和夫 ほか八名
主文
1 原告らの本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
一 原告らは、「被告が昭和六〇年七月一三日付で滝川駅前地区市街地再開発組合の事業計画の変更についてした認可及び同月二二日付北海道告示第一二五三号をもつてした右認可の公告を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、原告らの本訴請求は、これを要するに、都市再開発法に基づき施行者を滝川駅前地区市街地再開発組合とする滝川駅前地区第一種市街地再開発事業(国鉄函館本線滝川駅の駅前地区の土地の高度利用と都市の防災化等を促進し都市機能の更新を図るなどを目的とするもの)に関して、被告が昭和六〇年七月一三日付で右組合の事業計画の変更を認可し、同月二二日付北海道告示第一二五三号でその旨を公告したが、右事業計画の変更の認可及びその公告には実体上及び手続上の違法があるとし、これによつて右事業の施行地区内に土地又は建物を所有ないし賃借している原告らの権利、利益が侵害されているとして、右認可及びその公告の取消しを求めるものである。
二 そこで、原告らの本件訴えの適否について検討するに、都市再開発法に基づき市街地再開発組合を施行者とする第一種市街地再開発事業は、都市計画法による高度利用地区内の一定地域において、建物を高層化しその結果生じる余地を利用して公共施設を整備して都市の近代化を図るなどにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図ることを目的とし、市街地再開発組合の設立発起人による事業計画及び定款の作成、公共施設の管理者等の同意、施行地区となるべき区域の公告、施行地区となるべき区域内の宅地の所有権者及び借地権者の同意、事業計画の縦覧、市街地再開発組合の設立の認可及びその公告、権利変換手続開始の登記、金銭給付の申出、施行地区外への転出の申出、権利変換計画案の作成、権利変換案の縦覧、これに対する意見書の提出、権利変換計画案の確定、権利変換計画の認可、権利変換計画の公告及び通知、土地明渡しの請求、建物等の移転除却、再開発ビル・公共施設の建設、工事完了公告、清算等からなる一連の手続を経て、施行地区内にある建築物を除却し、敷地を統合整備し、街路・公園等の公共施設を整備するとともに、新たに施設建築物を建築して、従前の土地所有者等の権利者に対して施設建築物の一部の区分所有権とこれに対応する統合整備された敷地の地上権や所有権の共有持分あるいは借家権などを付与するものである。そして、これらの一連の手続の中にあつて、事業計画自体は、施行地区位置図及び施行地区区域図を作成して施行地区を明らかにし、設計説明書及び設計図を作成して設計の概要を示し、事業施行期間及び資金計画を明らかにするなどして、再開発事業の概要ないし基本的事項を一般的、抽象的に定めるものに過ぎず、権利変換の対象となる所有権、賃借権等の得喪の効果を生じるのは権利変換計画の公告、通知によつてであつて、事業計画又はその変更の認可、公告によつてはなんら個人の権利、利益の得喪を来すものではない。確かに事業計画が確定すれば一定の期間内にそれに準拠した権利変換計画が策定され、それに従つた権利の得喪が生じることになることは想定されるけれども、あくまで事業計画又はその変更はそれに続く具体的処分たる権利変換処分の前提に過ぎないのであつて、個人の権利、利益に対する侵害の度合いの具体性、切迫性及び現実性(非仮定性)において成熟せず、未だ抗告訴訟の対象となりうる行政処分ということはできないものと解するのが相当である。
もつとも、事業計画又はその変更の公告がされた後においては、権利変換計画の資料としての土地調書及び物件調書の作成等のために必要があれば他人の占有する建築物その他の工作物に立ち入つて測量又は調査することができ(都市再開発法六〇条)、当該事業の施行の障害となるおそれのある土地の形質の変更、建築物その他の工作物の新築、改築、増築等を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(同法六六条)、さらに、施行者は、施行地区内の宅地、建築物等について権利変換手続開始の登記の申請又は嘱託を行うことができ、その登記がされると当該登記にかかる宅地、建築物の所有権又は借地権を有する者は、これらの権利を処分するには、施行者の承認を要するようになる(同法七〇条)など、法は事業計画又はその変更の認可、公告という事実を要件として一定の法的規制の効果を付与しているけれども、これらは事業計画又はその変更自体の意思内容に由来するものではなく、法が事業計画又はその変更の認可、公告に伴つて付与した付随的な効果にとどまるものであり、また、この場合においても、これらの法的規制の不利益が現実化し具体化するのは個人が土地の形質の変更や権利の処分を行おうとしたときにおいてであつて、事業計画又はその変更の認可、公告がされたからといつて直ちに右のような不利益が顕現するものではなく、そのような意味でここでも事業計画又はその変更の認可、公告がされただけでは、未だ抗告訴訟の対象としての行政処分というに足りる個人の権利、利益に対する侵害の度合いの具体性、切迫性及び現実性に欠けるものといわざるをえない(右のような場合において、土地の形質の変更等を試みようとする個人が現実にその不許可処分等を受けたときには、それに対する抗告訴訟において事業計画又はその変更自体の瑕疵を主張して右不許可処分等を争うことができることは、いうまでもない。)。したがつて、法が事業計画又はその変更の認可、公告に右のような付随的な効果を付与しているからといつて、それだけでそれが抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとすることはできないものというべきである。
三 以上のとおりであるから、原告らが本訴において取消しを求める事業計画の変更の認可又はその公告は、いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には該当せず、原告らの本件訴えは不適法というほかないから、これを却下することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村上敬一 園尾隆司 垣内正)